· CFO Sarah 財務・会計  · 10 min read

TSMC、純利益77.4%増と設備投資枠600〜640億ドルへ——最高益の期に投資を決める順序と、減価償却という後払い

TSMCが2026年4-6月期に純利益7,065.6億台湾ドル(前年同期比77.4%増)と過去最高を更新し、同時に2026年の設備投資枠を600〜640億ドルへ引き上げました。最高益の期に投資を決める順序と、その投資が減価償却として将来の利益率を縛る構造を、財務の視点で読み解きます。

TSMCが2026年4-6月期に純利益7,065.6億台湾ドル(前年同期比77.4%増)と過去最高を更新し、同時に2026年の設備投資枠を600〜640億ドルへ引き上げました。最高益の期に投資を決める順序と、その投資が減価償却として将来の利益率を縛る構造を、財務の視点で読み解きます。

※ 本記事は2026年7月17日時点の公開情報に基づきます。最新情報は各社公式発表等をご参照ください。

2026年7月16日、TSMCが2026年4-6月期の決算を発表しました。連結売上高は1兆2,703.8億台湾ドル(402.0億米ドル)で前年同期比36.0%増、前期比12.0%増。純利益は7,065.6億台湾ドルで前年同期比77.4%増、希薄化後EPSは27.25台湾ドル(ADR当たり4.31米ドル)。粗利益率67.7%、営業利益率60.3%です(出典: TSMC公式プレスリリース)。

同じ日の決算説明会で、CFOのウェンデル・ホァン氏が2026年の設備投資枠を600〜640億ドルへ引き上げると述べ、質疑ではC.C. Wei CEOが従来の520〜560億ドルからの引き上げだと説明しています(出典: TSMC 2Q26決算説明会 公式議事録)。過去最高の利益を出した当日に、投資枠を積み増す。この順序に資本サイクルの本質が表れています。

最高益の期に投資枠を上げる、という順序

CFOは同じ説明会で、第2四半期に営業活動で約7,830億台湾ドルのキャッシュを生み、設備投資に4,960億台湾ドル、2025年第3四半期分の現金配当に1,560億台湾ドルを支出したと説明しました。それでも手元現金は990億台湾ドル増えて3.1兆台湾ドルになっています(出典: 同上)。

財務として重要なのはここです。その四半期の設備投資額が、同じ四半期に稼いだ営業キャッシュフローの範囲に収まっている。「利益が出ている時に投資を決める」とは勢いで決めることではなく、稼いだキャッシュの範囲内で枠を広げるという規律のことです。

600〜640億ドルを「何に」置くかは、すでに決まっている

金額より配分です。CFOは2026年の設備投資枠のうち70〜80%を先端プロセス技術に、約10%を特殊プロセスに、10〜20%を先端パッケージ・テスト・マスク製造等に充てると明言しました。第2四半期単体の設備投資額は157億米ドルです。C.C. Wei CEOは米アリゾナへの追加1,000億ドル投資を表明し、同州の累計投資額は2,650億ドルとなりました。2nm以下のロジック工場と先端パッケージ工場を建設します。質疑でWei氏は、追加でおそらく4工場以上が建つとし、時期は市況次第だとも述べています(出典: 同上)。

投資の議論は「いくら使うか」に集まりがちですが、意思決定の質は「何に、どの比率で」に表れます。

減価償却という後払い——利益率の低下は先に予告される

第3四半期の見通しは売上高446〜458億米ドル、粗利益率65〜67%、営業利益率56〜58%。CFOは粗利益率が中央値で1.7ポイント低下して66%になると説明し、主因を2nmの急速な立ち上げによる3〜4ポイントの希釈だとしています。海外工場の拡大に伴う希釈も、初期で2〜3%、後半には3〜4%へ広がると見込むと述べました。第2四半期のウエハ売上構成は2nmが3%、3nmが30%、5nmが33%、7nmが11%で、7nm以下が合計**77%**です(出典: 同上)。

最大の希釈要因である2nmは、まだウエハ売上の3%にすぎません。ここに設備投資の本質があります。工場に払った資金は支払時点ではB/Sの資産ですが、その後は数年にわたり減価償却費としてP/Lを削ります。稼働が売上に結びつく前に費用だけが先に立つため、投資の直後は利益率が下がる。TSMCの粗利益率が67.7%から66%へ下がる見通しは、需要が弱いからではなく、投資したからです。

中小企業への翻訳——買う前に「償却後の損益」を書く

設備投資の判断は、規模が違っても手順は同じです。順に3つ。

  1. 原資 — その投資は営業キャッシュフローの範囲に収まるか。借入なら返済原資は何か。
  2. 配分 — 総額ではなく内訳を先に決める。「いくら」より「何に何%」を書けるかが判断の解像度です。
  3. 償却後の損益 — 買った翌月からの月次損益を、償却費を入れた形で先に書く。稼働率が読めない設備は、償却期間が終わるまで固定費として残ります。

AI関連の設備投資では3点目が特に効きます。TSMCは新技術の開発から量産立ち上げまでに5〜7年かかると説明しており、今回の増額が供給増につながるのは相応に先です。当面、先端半導体を積んだサーバーは売り手市場が続くでしょう。だとすれば、AIのために自社でGPUサーバーを購入し、5年の減価償却で損益を縛る必要は多くの場合ありません。従量課金やAPI利用で必要量だけ確保すれば、資産は増えず、需要が消えた月には費用も消えます。

まとめ

  • TSMCの2026年4-6月期は売上1兆2,703.8億台湾ドル(前年同期比36.0%増)、純利益7,065.6億台湾ドル(同77.4%増)で過去最高を更新。粗利益率は67.7%(前期比1.5ポイント上昇)、営業利益率60.3%
  • 同日、2026年の設備投資枠を520〜560億ドルから600〜640億ドルへ引き上げ。70〜80%を先端プロセスに配分し、アリゾナへ追加1,000億ドル(同州累計2,650億ドル)を表明
  • 第2四半期の設備投資4,960億台湾ドルは同期の営業キャッシュフロー7,830億台湾ドルの範囲内。一方で第3四半期の粗利益率は66%へ低下する見通しで、投資はまず利益率の低下として現れる
  • 日本企業への示唆は、設備投資を「原資・配分・償却後の損益」の3点で書き切ること。AI用ハードは自社購入より従量課金の方が資本効率で優る場面が多い

過去最高益と設備投資の増額が同じ日に発表されるのは、偶然ではありません。稼げた期にしか、次の投資枠は広げられないからです。そして広げた枠は、翌期以降の減価償却として必ず戻ってきます。TSMCが利益率の低下幅を先に開示したのは、痛みを織り込んで投資を決めた証です。自社の設備投資も、買う前に償却後の損益を書いてみる——この順序を守る限り、投資は経営を強くすると私たちは考えます。

※ 本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の法的・財務的・経営的助言ではありません。具体的な課題については専門家にご相談ください。

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