· CFO Sarah 財務・会計 · 10 min read
Intel、売上161億ドルで25%増・純損失110億ドル——増収と赤字が同居する決算を3層に分けて読む
Intelの2026年4-6月期は売上161億ドルで前年同期比25%増、GAAP営業利益は17.96億ドルの黒字でした。それでも純損失は110億ドル。主因は米政府との合意に伴う125.29億ドルの時価評価損です。営業損益・営業外・キャッシュフローを分けて読む作法を、中小企業の月次決算に落とします。
※ 本記事は2026年7月27日時点の公開情報に基づきます。最新情報は各社公式発表等をご参照ください。
2026年7月23日、Intelが2026年4-6月期の決算を発表しました。売上高は161億ドルで前年同期比25%増、リップブー・タンCEOは「15年超で最も強い増収」と述べています。GAAP営業利益は17.96億ドルの黒字。ところがIntel帰属のGAAP純損失は110.33億ドル、希薄化後EPSはマイナス2.16ドルで、非GAAP EPSは0.42ドルの黒字でした。同じ3か月が、指標次第で「好調」とも「大赤字」とも読める。損益計算書をどこまで分解するかを突きつける決算です(出典: Intel 公式IRプレスリリース)。
営業で稼ぎ、営業の外で失った——差額128億ドルの正体
営業利益17.96億ドルの黒字と、純損失110.33億ドル。この約128億ドルの落差を作った主因は、ほぼ一つの項目です。営業外の「interest and other, net」がマイナス125.76億ドルとなり、うち125.29億ドルが「Escrowed Shares」の時価評価損でした。Intelの開示によれば、米国政府とのワラント・普通株式合意に関連して認識したデリバティブ負債の、公正価値の変動です。非GAAPで除かれた他の項目は、株式報酬6.87億ドル、リストラ等1.70億ドル、買収関連調整1.17億ドルなどで、いずれも桁が違います(出典: 同上)。
本業の利益ではなく、資本取引に伴う負債の値洗いが最終損益を沈めた。数字の大きさに驚く前に、それがP/Lのどの層に立っているかを確かめる——決算を読む順序はここからです。
部門別に割ると、伸ばす事業と沈める事業が分かれる
全社の平均値は実態を隠します。DCAI(データセンター・AI)は売上63億ドルで前年同期比59%増、営業利益25億ドル。クライアント・コンピューティング/フィジカルAIは売上89億ドルで13%増、営業利益23億ドル。一方でIntel Foundryは、売上58億ドルと31%伸ばしながら営業損失20.89億ドルを計上しています。なお部門別売上には社内取引が含まれ、連結では54.77億ドルが内部取引として消去されます。Intel Foundryの58億ドルにも社内向けが含まれ、外部顧客向けの内訳は開示されていません(出典: 同上)。
製造面では18A-Pがリスク生産に入り、ASMLのHigh NA EUV「EXE」を用いてCore Ultra Series 3の一部(開発コード名Panther Lake)が量産段階に入りました。またIntel 3で製造するXeon 6および次世代Xeonの生産能力拡大に50億ユーロを投じると表明しています(出典: 同上)。対象地域や稼働時期の記載はなく、ファウンドリ赤字の要因説明もありません。一時的な投資赤字か構造的な赤字かは、次の数四半期の外部顧客売上で判定するしかありません。
営業キャッシュフローは黒字、それでも手元資金は減っている
第2四半期の営業キャッシュフローは70.06億ドルのプラス。純損失110億ドルとの同居は、損失の主因が現金の出ていかない評価損だからです。第3四半期の見通しが売上158億〜168億ドル、GAAP EPS 0.31ドル、非GAAP EPS 0.38ドルと黒字なのは、予測の難しい評価損の継続を見通しに織り込まないためと考えられます(Intelは見通しにおける当該項目の扱いを明示していません)。
ただし営業キャッシュフローのプラスは手元資金の増加を意味しません。設備投資26.52億ドル、パートナー拠出(純額)マイナス122.16億ドルなどを反映した調整後フリーキャッシュフローは84.19億ドルのマイナス。現金及び現金同等物と短期投資の合計も、2025年12月27日の374.16億ドルから2026年6月27日には297.27億ドルへ76.89億ドル減りました。営業で生んだ現金が出ていくのは見通しではなく実績です(出典: 同上)。
中小企業への翻訳——月次決算は3層に分けて読む
Intelの読み方は、そのまま自社の月次試算表に使えます。手順は3つです。
- 営業損益だけを12か月並べる — 本業で稼げているかはこの行だけで判断します。営業外や特別損益を混ぜた経常利益・当期純利益で前年と比べると、伸びたのか縮んだのかが分かりません。
- 営業外・特別の科目を「今期限りか、来期も出るか」で仕分ける — 為替差損益、固定資産の売却損益、保険の解約返戻金、補助金。一度きりの数字が立つと最終利益は簡単にひっくり返ります。Intelの125.29億ドルと同じ構造が、規模を変えて自社にも起きます。
- 預金残高の推移を重ねる — 黒字でも現金が減る(売掛金の膨張、在庫増、設備投資)ことも、赤字でも現金が増える(減価償却、評価損)こともあります。
この3枚があれば「なぜ黒字なのに資金繰りが苦しいのか」に説明がつきます。銀行との対話でも、最終利益の一行より3層で示すほうが伝わります。調達面では、Intelの巻き返しが供給選択肢を増やすのはまだ先です。サーバー・PCの価格は当面上がる前提で更新計画を今期中に決めておくのが安全です。
まとめ
- Intelの2026年4-6月期は売上161億ドル(前年同期比25%増)、GAAP営業利益17.96億ドルの黒字。一方でGAAP純損失は110.33億ドル、非GAAP EPSは0.42ドル
- 落差の主因は営業外の「Escrowed Shares」時価評価損125.29億ドル。米政府との合意に伴うデリバティブ負債の公正価値変動で、本業の損益ではない
- DCAIが63億ドル・59%増と伸びる一方、Intel Foundryは売上58億ドルに対し営業損失20.89億ドル。全社平均は実態を隠す
- 示唆は月次決算を「営業損益・営業外/特別・キャッシュフロー」の3層に分けて読むこと。最終利益の一行で会社の状態は判断できない
決算で最も誤解を生みやすいのは、一番下の行です。Intelは営業利益を出しながら110億ドルの純損失を計上し、営業キャッシュフローは70億ドルのプラス、それでも手元資金は減りました。どの数字も正しく、どれ一つでは会社を説明しません。自社の月次でも3層を分けて並べ、数字が動いたとき「どの層で動いたのか」を即答できる状態にしておく。それが経営判断の速さを支えると私たちは考えます。
※ 本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の法的・財務的・経営的助言ではありません。具体的な課題については専門家にご相談ください。