· CHRO Emma 人事・組織  · 10 min read

ウォルマート210万人体制で教育投資を継続——日本のAI求人クリックは64.6%が非テック職

ウォルマートが2026年7月16日に公表した雇用報告書は、世界210万人の体制で教育投資を続ける方針を示しました。同時期、日本ではAI関連求人クリックの64.6%が非テック職種です。人を採るのではなく育てる側に軸を置く判断を、人事の視点で読み解きます。

ウォルマートが2026年7月16日に公表した雇用報告書は、世界210万人の体制で教育投資を続ける方針を示しました。同時期、日本ではAI関連求人クリックの64.6%が非テック職種です。人を採るのではなく育てる側に軸を置く判断を、人事の視点で読み解きます。

※ 本記事は2026年7月20日時点の公開情報に基づきます。最新情報は各社公式発表等をご参照ください。

2026年7月16日、米ウォルマートが雇用報告書「2026 Jobs Spotlight Report」を公表しました。世界210万人(うち米国160万人)を雇用する同社は、AIが仕事のやり方を変えつつあることを認めたうえで、最高人事責任者のDonna Morris氏が「多くがAIを雇用を奪うものと位置づけているが、その影響を予測するのは時期尚早に見える」と述べています。人員削減の報道が相次ぐなかで、世界最大級の雇用主が示したのは削減計画ではなく、教育投資を続けるという判断でした(出典: Walmart Corporate Newsroom)。

「時期尚早」と言えることの意味

この報告書で人事の目を引くのは、数字よりも姿勢です。210万人という規模なら、AIによる効率化の効果を試算し、そこから逆算して人員計画を組み立てることもできたはずです。しかし同社は、影響の見積もり自体が現時点では困難だという立場を取りました。これは「AIは雇用に影響しない」という主張ではありません。予測を急がず、判断は保留したまま人への投資は止めない。観測の定まらない領域では既存の従業員の能力を伸ばす側に賭けた、と読むのが正確だと私たちは考えます。

教育投資の中身——12万6000人と400万件

同社の投資は具体的な数字で示されています。自社負担の教育・研修プログラム「Live Better U」には12万6000人超が参加し、2016年以降のWalmart Academyでの研修修了は400万件超に達しました。このうちLive Better Uを修了した従業員は、昇進する可能性が3倍、在籍を継続する可能性も3倍になるとされています。2024年に掲げた米国での「需要職種10万件」への登用目標は前倒しで達成され、その半数超は昇進を通じたものでした。3年目末には当初想定の倍の20万件に届く見込みです(出典: 同上)。

これを支えているのが内部労働市場の設計です。米国の職務の90%は大卒要件がなく、店舗・クラブ・サプライチェーンの給与制リーダーの約75%が時給従業員からの昇進組だとされています。Associate to Technicianプログラムは600人超が修了し、2030年までに3000のテクニシャン職のスキル強化を目標に掲げています(出典: 同上)。外から連れてくるのではなく、すでにいる人を上に動かす。この通路があるからこそ、教育投資が回収できます。

日本ではAI求人の主役が非テック職に移った

日本の労働市場でも変化が起きています。求人サイトIndeedの調査機関Indeed Hiring Labが2026年7月14日に公表した分析(執筆:Yusuke Aoki氏)によれば、日本国内のAI関連の仕事検索は2022年11月のChatGPT登場以降およそ13倍に増加しました。分析対象は2022年1月から2026年6月までの4年半です(出典: Indeed Hiring Lab)。

構成の変化はさらに重要です。AI関連求人へのクリックに占めるテック職種の割合は2023年の66.2%から2026年には35.4%へ低下し、非テック職種は33.8%から64.6%へと逆転しました。非テック側の内訳は芸術・エンターテインメント9.0%、事務7.3%、メディア・コミュニケーション6.9%、マーケティング4.9%です。またAI関連検索の73.4%、およそ4件に3件は、「AI」「生成AI」を職種名や働き方といった具体的な語と組み合わせた連語検索でした(出典: 同上)。求職者は「AIの会社」ではなく「自分の仕事でAIをどう使うか」を探している、と読めます。

中小企業への翻訳——求人票と学習機会を先に書き換える

規模は違いますが、2つの事実は同じ方向を指しています。AIの雇用への影響はまだ確定的に語れず、一方でAIへの関心は事務・マーケティング・広報といった非テック職まで広がっている、ということです。

1. 求人票の書き換え。 「AIエンジニア募集」ではなく、事務職や営業職の募集要項に、生成AIで何をどこまで任せるのかを具体的に書く。連語検索が7割を超える以上、職種名や働き方に紐づいた求人ほど、探している人に届きます。

2. 学習機会と出口の設計。 大規模プログラムは不要です。業務時間内に学ぶ枠を確保し、修了者に新しい職務を割り当てる通路を先に用意しておく。教育は、その先に配置転換や昇進という出口があって初めて定着に効きます。

まとめ

  • ウォルマートは2026年7月16日、世界210万人(米国160万人)体制の雇用報告書を公表。最高人事責任者は「AIの影響を予測するのは時期尚早に見える」と述べた
  • 自社負担の「Live Better U」には12万6000人超が参加し、2016年以降の研修修了は400万件超。米国での需要職種10万件の登用目標は前倒し達成し、3年目末には20万件の見込み
  • 日本ではAI関連の仕事検索がChatGPT登場以降およそ13倍。AI求人クリックに占める非テック職の比率は33.8%から64.6%へ逆転した
  • 中小企業がやるべきは、既存職種の求人票にAI活用の具体像を書くことと、学習の先に配置と昇進の出口を用意すること

削減の発表は目を引き、教育投資の発表は地味です。それでも、210万人を抱える企業が「予測するのは時期尚早」と述べながら学習の通路を広げ続けている事実は、AIをめぐる人事判断の落ち着きどころを示しているように思います。人を減らす計画より先に、いま在籍している人が半年後にどんな仕事をしているかを描いてみる。それが最も費用対効果の高い一手だと私たちは考えます。

※ 本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の法的・財務的・経営的助言ではありません。具体的な課題については専門家にご相談ください。

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