· CAO Sophia · 法務・コンプライアンス · 12 min read
AI活用と法律リスク 2026年に社長が押さえるべきポイント
EU AI Actの施行や日本のAI基本法の議論が進む2026年。中小企業の社長がAI活用で避けるべき法的リスクと、明日から実践できる社内ルール整備のポイントを解説します。
※ 本記事は法的アドバイスではありません。具体的な法的判断は弁護士にご相談ください。
「ChatGPTを社員が使い始めたけど、法的に大丈夫なのか?」——2026年に入り、こうしたご相談が急増しています。AI技術の進化は目覚ましく、中小企業でも業務効率化にAIを活用する場面が当たり前になりました。一方で、AIに関する法規制は世界的に整備が進んでおり、「知らなかった」では済まない時代に入っています。
本記事では、従業員5〜50名規模の中小企業の社長が、2026年時点で最低限押さえるべきAI活用の法的ポイントを整理します。
2026年、AI規制の動きはどうなっている?
EU AI Act(AI規制法)の本格施行
2024年8月に発効したEU AI Act(欧州AI規制法)は、2026年8月2日から主要規定の適用が始まります。これはEU域内の話ですが、日本の中小企業にも無関係ではありません。
EU域内の顧客にサービスを提供している場合や、EU企業と取引がある場合は、この規制の対象になる可能性があります。また、EUの規制は世界の法整備に影響を与えるため、今後日本でも同様の規制が導入される可能性が高いです。
日本のAI基本法と人工知能基本計画
日本では2025年9月に「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律」が全面施行されました。現時点では罰則のない努力義務が中心ですが、2025年12月に閣議決定された「人工知能基本計画」に基づき、より具体的なルール整備が進んでいます。
重要なのは、法律に罰則がなくても、AIの利用でトラブルが起きた場合に「法律を知らなかった」は通用しないということです。努力義務であっても、企業として適切な対応を講じていたかどうかは、裁判や行政指導の場で問われます。
押さえるべきポイント1:AI生成コンテンツの著作権リスク
AIが作った文章や画像の権利は誰のもの?
AIに記事を書かせたり、画像を生成させたりするケースは増えていますが、著作権の問題は非常にグレーな領域です。
現在の日本の著作権法では、**著作物とは「人間の思想又は感情を創作的に表現したもの」**と定義されています。つまり、AIが自動生成したコンテンツは原則として著作物に該当しません。これは「AIが作ったものは著作権で保護されない」ということを意味します。
一方で、AIに学習させるデータの中に他者の著作物が含まれている場合、生成されたコンテンツが元の著作物に類似していれば、著作権侵害のリスクがあります。
社長が取るべきアクション
- AIで生成したコンテンツをそのまま公開・納品しない。必ず人間が確認・編集する
- 競合他社や特定のクリエイターの作品に酷似していないかチェックする
- 「AIで作成した」ことを社内で記録に残す(トラブル時の説明責任のため)
押さえるべきポイント2:個人情報保護法とAIの関係
顧客データをAIに入力していいのか?
結論から言うと、安易に入力してはいけません。
個人情報保護法では、個人情報の第三者提供には原則として本人の同意が必要です。外部のAIサービス(ChatGPT、Gemini、Claudeなど)に顧客の氏名・メールアドレス・購買履歴などを入力する行為は、サービス提供者への個人情報の提供に該当する可能性があります。
さらに、多くのAIサービスでは、入力されたデータがモデルの学習に使用される設定がデフォルトになっています。これは「顧客の個人情報がAIの学習データに組み込まれる」ことを意味し、極めて深刻な問題です。
社長が取るべきアクション
- AIサービスの利用規約を確認し、**データが学習に使用されない設定(オプトアウト)**があるかチェックする
- 顧客の氏名・連絡先などの個人情報は、匿名化・仮名化してからAIに入力するルールを作る
- 「AI活用における個人情報の取り扱い」をプライバシーポリシーに追記することを検討する
押さえるべきポイント3:社内AI利用ルールの整備
なぜルールが必要なのか
社員が個人の判断でAIを使い始めると、以下のリスクが発生します。
- 機密情報の漏洩:取引先との契約内容、未公開の事業計画、社員の個人情報などをAIに入力してしまう
- 誤情報の拡散:AIが生成した不正確な情報をそのまま顧客に提供してしまう
- 著作権侵害:AIが生成したコンテンツが他者の著作物を侵害していることに気づかず使用してしまう
最低限決めるべき5つのルール
社内AI利用ルールは、最初から完璧である必要はありません。まず以下の5つを決めてください。
- 入力禁止情報の明確化:「顧客の個人情報」「取引先の機密情報」「未公開の財務情報」など、AIに入力してはいけない情報を具体的にリスト化する
- 利用可能なAIサービスの指定:会社として許可するAIサービスを明確にする。個人アカウントでの業務利用は原則禁止にする
- 出力の確認ルール:AIの出力をそのまま使わず、必ず人間が事実確認・内容確認を行う
- 記録の保持:AIを使って作成した成果物には、AIを使用した旨を社内記録として残す
- 定期的な見直し:法規制やAI技術は急速に変化するため、半年に1回はルールを見直す
「知らなかった」では済まない3つの法的ポイント
最後に、2026年時点で経営者として絶対に知っておくべきポイントをまとめます。
1. AI利用も個人情報保護法の対象である
AIサービスへの個人情報の入力は、第三者提供に該当しうる。違反した場合、個人情報保護委員会からの勧告や命令、さらには刑事罰の対象になります。
2. AIが生成したコンテンツでも著作権侵害は成立する
「AIが勝手に作ったから自分は悪くない」は通用しません。AIの出力を利用した人が責任を負います。
3. 社内ルールの不備は経営者の責任になる
社員がAIを不適切に使用した結果、情報漏洩や権利侵害が発生した場合、社内ルールの整備を怠った経営者の管理責任が問われます。
まとめ
- EU AI Actの主要規定が2026年8月に適用開始。日本でもAI基本法の施行後、具体的なルール整備が進行中
- AI生成コンテンツの著作権はグレーゾーン。他者の著作物との類似に注意し、必ず人間が確認してから使用する
- 顧客の個人情報をAIに安易に入力しない。匿名化・オプトアウト設定の確認を徹底する
- 社内AI利用ルールを今すぐ作る。完璧でなくていいので、入力禁止情報の明確化から始める
- 「知らなかった」は通用しない。AI活用は経営判断であり、法的リスクの管理は社長の責任
AIは正しく使えば中小企業の大きな武器になります。しかし、法的リスクを放置したまま使い続けることは、会社を危険にさらすことと同じです。まずは本記事のポイントを参考に、今週中に社内AI利用ルールの策定に着手してみてください。
※ 本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の法的・財務的・経営的助言ではありません。具体的な課題については専門家にご相談ください。