· CMO Olivia マーケティング · 10 min read
EU、GoogleにAndroidの11機能の開放を義務付け——2027年に変わるAIアシスタントと集客の入口
欧州委員会は2026年7月16日、DMAに基づきGoogleへ拘束力ある特定措置を採択しました。Androidの11機能を競合AIアシスタントに開放し、検索データを第三者に共有させます。共有開始は2027年1月、Android側の変更は2027年7月。顧客接点の設計を考えます。
※ 本記事は2026年7月22日時点の公開情報に基づきます。最新情報は各社公式発表等をご参照ください。
欧州委員会は2026年7月16日、デジタル市場法(DMA)に基づき、Googleに対して2組の拘束力ある「特定措置」決定を採択しました。1つはAndroidの主要機能を競合のAIアシスタントに開放させるもの、もう1つはGoogle検索だけが大規模に収集できるデータを第三者の検索事業者に共有させるものです。欧州委員会は、EU利用者の60%がAndroid端末を使う一方で、競合のAIアシスタントは主要機能に限定的なアクセスしか持てず、対等な条件で競争できていないと指摘しています。検索データの共有は2027年1月から始まり、Android側の変更は2027年7月から利用者が恩恵を受けるとされています(出典: 欧州委員会 プレスリリース IP/26/1634)。
「Hey Google」の隣に、他社のAIが並ぶ
今回の決定により、利用者は「Hey Google」と同じように、音声コマンドで好きなAIアシスタントを起動できるようになります。第三者のAIアシスタントが利用者に代わってアプリ内で操作することも可能になります。欧州委員会が挙げた例は、タクシーの予約を任せる、チャットアプリで返信案の提案を受け取る、最近訪れた場所について尋ねる、といったものです。あわせて、利用者のプライバシー・端末の完全性・セキュリティを守るセーフガードを組み込むとされています(出典: 同上)。
開放の対象は具体的です。DMA開発者ポータルによれば、Invocation(起動)、Context(文脈)、Actions on apps and OS(アプリとOSでの操作)、Access to resources(リソースへのアクセス)の4群に整理された11機能が対象で、ホームボタン長押しでの起動、常時のホットワード検出、画面自動化、Gemini Nanoを含む端末内モデルへの同等条件でのアクセス、バックグラウンド実行などが並びます。実装期限は「次のメジャーリリースであるAndroid 18で、遅くとも2027年8月1日まで」、同時ホットワード検出は「Android 19で、遅くとも2028年8月1日まで」です(出典: 欧州委員会 DMA開発者ポータル)。
検索データの共有先に「AIチャットボット」が明記された
2つ目の決定は検索データです。欧州委員会は、これまでのGoogleのデータ共有提案が実効性を欠いてきた点に踏み込み、検索機能を提供するAIチャットボットも共有データを受け取る資格があること、匿名化を前提にGoogleが自社の検索最適化のために収集しているのと同じデータを共有すべきことを明示しました。匿名化は内部・外部のプライバシー専門家と協力した多層的な手法で行い、DMAとGDPRの関係に関する共同ガイドライン案に沿うとされています。共有データの価格を算定する公正な計算式と、透明なアクセス手続きも定められました(出典: 欧州委員会 プレスリリース IP/26/1634)。
検索の答えを組み立てる材料が、Googleの外にも正規のルートで流れ始めるということです。検索データの規模はこれまで回答品質の差となり、参入障壁として働いてきました。その障壁に、規制の側から通路が開けられた形だと言えます。
制裁金ではなく、実装の「設計図」
見落としやすいのが決定の性格です。特定措置の手続は非遵守調査とは区別され、ゲートキーパーの遵守状況を評価するものではないため、制裁金の賦課を予定していません(出典: 同上)。示されたのは罰則ではなく「どう実装すべきか」の設計図であり、それでいて法的拘束力を持ちます。
罰金の報道は一過性ですが、実装の設計図は市場の構造を変えます。2027年1月から2028年8月1日まで期限が具体的に置かれた以上、EU市場では「AIアシスタントは端末に1つ」という前提が崩れる方向に進む、との見方ができます。
中小企業への翻訳——集客の入口が「一つ」でなくなる
日本の中小企業にとっても、遠い国の競争政策の話ではありません。顧客が情報にたどり着く経路が分散するなら、集客の設計も分散を前提に組み直す必要があります。費用をかけずに着手できることは3つあります。
1. 「検索対策」を「回答対策」に読み替える どのAIアシスタントから聞かれても同じ答えが返る状態かを点検します。営業時間・価格帯・対応エリア・実績が、自社サイトで機械にも読み取れる形で一貫しているか。今日から直せる部分です。
2. 単一プラットフォームへの依存度を実数で出す 流入の何割が1つの経路から来ているかを把握します。割合が高いほど、入口の仕様変更が売上に直結します。数字を出してから第2・第3の経路を用意する、という順番です。
3. AIが代行する予約・問い合わせに耐える導線にする タクシー予約の代行が例に挙がったように、AIが利用者に代わって操作する場面は増えます。導線が人間の目視前提で複雑なままだと、代行の対象から外れます。単純化は人にも機械にも効きます。
まとめ
- 欧州委員会は2026年7月16日、DMAに基づきGoogleへ2組の拘束力ある特定措置決定を採択(IP/26/1634)。根拠はDMA第6条(7)と第6条(11)
- EU利用者の60%が使うAndroidで4群11機能を競合AIアシスタントに開放。期限はAndroid 18で遅くとも2027年8月1日、同時ホットワード検出はAndroid 19で遅くとも2028年8月1日
- 検索データは2027年1月から適格な検索エンジン事業者への共有を開始。検索機能を持つAIチャットボットも受領対象と明記された
- 日本の中小企業も、集客の入口が単一の検索・単一のアシスタントに固定されない前提で、情報の一貫性と導線の単純さを整える段階にある
規制の議論は、大企業同士の争いに見えます。しかし今回動いたのは、顧客が最初に触れる場所そのものです。入口が増えることは、選ばれる機会が増えると同時に、どの入口から来た顧客にも同じ品質で応えられるかを問われるということでもあります。入口の数ではなく、どの入口から入っても崩れない情報と導線を持つことが、これからの集客の土台になると私たちは考えます。
※ 本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の法的・財務的・経営的助言ではありません。具体的な課題については専門家にご相談ください。